赤ちゃんの頭が上にあり、おしりが骨盤に向かっている状態を骨盤位といいます。
妊娠33週頃までは、しばしば骨盤位の赤ちゃんをみかけます。その後、赤ちゃんが自然に回転して、36週頃までにはほとんど頭が下(頭位といいます)の状態になります。
ところが、一部の赤ちゃんは33週をすぎても自然に回転せず、骨盤位のままとどまっていることがあります。満期に入っての骨盤位の確率は、3-4%といわれています。そのまま陣痛が発来しますと、おしりや足が先になって生まれてくる(骨盤位分娩)ことになります。
骨盤位分娩は、ふつうの分娩(頭が先に生まれてくる分娩で、頭位分娩といいます)に比べて、胎児に危険がおよぶ可能性が高いことが知られています。
赤ちゃんの頭は、おしりやおなかより大きくなっています。頭から生まれる通常の分娩(頭位分娩)では、もっとも大きな頭が生まれてしまえば、そのあとおなかとおしりはほとんど抵抗なく、短時間に生まれてくることになります。
ところが、骨盤位分娩の場合には、おしりが生まれた後に、最も大きな頭引っかかって容易には出てこないことがあります。そのほかに、骨盤位分娩でおしりや足が下になっている場合、またの間の隙間に臍帯が入り込んで圧迫されたり、時には子宮の外に滑り出してしますことがあります。この場合には、臍帯の血液が流れにくくなり、赤ちゃんの状態が急激に悪くなるおそれがあります。また、医学の進歩によって帝王切開の安全性が向上してきました。
そこで、最近では、骨盤位の場合、予定帝王切開を行うこと一般的です。
帝王切開は、赤ちゃんにとってより安全と考えられますが、逆にお母さんにとっては100%安全な分娩方法ではありません。麻酔にともなう異常や事故あるいは手術にともなう感染や出血などの危険が伴います。また、経腟分娩予定でも、緊急帝王切開になった場合には、急いで手術をするため手術そのものに伴ういろいろな合併症の頻度が、通常の手術より若干高くなります。 経膣分娩と帝王切開分娩について、それぞれの利点と危険性は次の通りです。
予定帝王切開の利点
分娩時のトラブルが少ない。 ex) 前期破水、臍帯下垂、臍帯脱出など。
児の合併症が少ない。 ex) 頭蓋内出血、脳脊髄損傷、けいれん、呼吸障害、鎖骨や上腕骨の分娩時骨折、分娩麻痺など
手術にともなう合併症が少ない。
経腟分娩の利点(興味がある方は、骨盤位の経膣分娩の映像をご覧ください)
出血に伴う母体合併症がない。 ex) 感染、出血、肺梗塞・血栓症(これらは経腟分娩でもおこることがありますが、頻度は少ないです)、腸閉塞、麻酔にともなう合併症など
入院期間が短い
次回分娩時の子宮破裂、前置胎盤などの危険が増えない。
医学的にみて、経膣分娩では児の危険性が高いと判断される場合には、原則として帝王切開をおすすめします。それ以外の場合については、経膣分娩と帝王切開の利点・欠点をよく勘案して、どちらかの分娩方法を選択してください。いずれの方法を選択された場合にでも、全力で分娩管理に当たりますが、100%危険性を回避できるわけではないことをご了解下さい。
外回転術について
上記のような骨盤位での様々な合併症を回避するための方法として、子宮の外から赤ちゃんの頭を上から下に回転させる 外回転術 という方法もあります。
妊娠36週にはいっても自然に赤ちゃんの頭が下にきていない場合に行います。条件(子宮収縮、赤ちゃんの下降度、羊水量、胎盤の位置、妊娠歴など)にもよりますが、成功率は 50% ぐらいです。
お腹が張っていたり、赤ちゃんのお尻がお母さんの骨盤の中に深く入り込んでいると成功率が低くなるので、お母さんの頭を低くして子宮収縮抑制剤を点滴しながら行います。また、お腹の上から強く押しながら行うため、施行中に赤ちゃんが具合が悪くなることもあります。施行前後には超音波や胎児心拍モニター等を行います。
外回転術が成功して赤ちゃんが頭位となりましたら、以後は他の頭位の方と同じ様に健診および分娩待機となりますが、また骨盤位にもどってしまうこともあります。 合併症として一番多いのは一過性の胎児徐脈ですが、多くは回復します。その他にまれに、前期破水、陣痛発来、臍帯のもつれ、胎児母体間輸血、常位胎盤早期剥離(赤ちゃんが出生する前に胎盤がはがれてくること)などがあります。
新生児罹患率
合併症 |
選択的帝王切開 予定群(1039例) |
骨盤位経腟分娩 予定群(1039例) |
---|---|---|
分娩損傷脳内・脳室内出血、脊椎損傷、頭蓋底骨折、長管骨・鎖骨骨折、上腕神経麻痺、性器損傷など | 6(0.6%) |
14(1.4%) |
けいれん |
1(0.1%) |
7(0.7%) |
筋緊張低下 |
2(0.2%) |
18(1.8%) |
意識レベル異常
過敏性、傾眠、嗜眠、昏迷、痛覚鈍麻、昏睡など |
6(0.6%) |
16(1.6%) |
新生児仮死 |
8(0.8%) |
31(3.0%) |
挿管・人工換気使用 |
3(0.3%) |
13(1.3%) |
経管栄養 |
12(1.2%) |
32(3.1%) |
新生児集中治療室入院(日) |
16(1.6%) |
31(3.0%) |
(Hannahら、2000 一部改編)
母体罹患率
合併症 |
選択的帝王切開 予定群(1041例) |
骨盤位経腟分娩 予定群(1042例) |
---|---|---|
母体死亡率または重症後遺症罹患率 |
41(3.9%) |
33(3.2%) |
母体死亡率 |
0 |
1(0.1%) |
分娩後大出血 |
10(1.0%) |
13(1.3%) |
性器損傷
子宮切開の延長など、子宮頚管裂傷、膣壁・会陰血腫 |
6(0.6%) |
6(0.6%) |
創部感染・創部離開 |
16(1.5%) |
10(1.0%) |
全身感染症 |
16(1.5%) |
13(1.3%) |
うつ状態 |
3(0.3%) |
0 |
産後平均入院期間(日) |
4.0(1.7-7.4) |
2.8(0.8-6.9) |