硬膜外カテーテル挿入による鎮痛法について

硬膜外鎮痛法とは麻酔方法の一種である硬膜外麻酔を用いて、今後予想される痛みを和らげる方法です。内服薬などで鎮痛を図ることが困難な痛みが継続することが予想される場合(手術、分娩、動脈塞栓術、膵石破砕など)は事前にカテーテルを挿入して、持続的に薬剤を投与できるように準備します。

痛みのとれる仕組みを簡単に説明します。背骨の中に脊髄が通っていますが、それを包んでいるのが硬膜で、硬膜外というのはその外側を指します。硬膜外腔に麻酔薬や鎮痛薬を投与し、痛みを伝達する神経(体性神経)や、交感神経をブロック(遮断)することで痛みを和らげることができます。

ただし、以下の項目に該当する場合、硬膜外カテーテル挿入ができない場合があります。

また、以下に書かれているような合併症が稀に起こります。

 

硬膜外カテーテル挿入が受けられない場合

以下の項目に該当する方は、硬膜外カテーテル挿入を受けることができません。(個々のケースについては、担当医が判断させていただきます。)

1)中枢神経系の炎症がある場合

2)全身に感染症が及んでいる場合

3)穿刺部位及びその付近に化膿性疾患がある場合

4)出血傾向のある方(日常生活で血が出やすく止まりにくい方、または遺伝的疾患の方など)

5)抗凝固薬(アスピリン・ワーファリンなど)を内服している方

(心筋梗塞・脳梗塞などの既往がある方が内服されている場合が多いです)

6)脊椎の変形・異常

硬膜外カテーテル挿入に伴う合併症 

1)低血圧:薬の量や濃度によって、また患者さんの状態によって血圧が低下することがあります(約1.8%)。その場合は点滴や昇圧剤を使用して治療することがあります。

2)硬膜穿刺、それに伴う頭痛:硬膜外腔は広いところで5mm、狭いところでは2mm と非常に狭い空間です。したがって針先が硬膜を穿刺してしまうことがあります(約0.5-1%)。硬膜穿刺が起きた場合、カテーテル挿入部位を変えて行う場合もありますが、状況によってはその時点で中止する場合もあります。

また、硬膜穿刺後に頭痛が出現することがありますので、安静臥床・点滴による補液を行う場合があります。頭痛は適切な治療を行えば多くは数日で回復しますが、まれに長引く場合があります。

3)局所麻酔薬・鎮痛薬のくも膜下腔への誤注入:硬膜穿刺(前項で説明)の徴候が表れず、気づかずに局所麻酔薬・鎮痛薬をくも膜下腔(硬膜の内側)へ注入してしまう場合があります。この場合、投与薬剤の効果が強くなり、運動神経もブロックされ手や足が動かなくなることがあります。穿刺部位・注入薬剤の量によっては急激な血圧低下・呼吸停止・意識消失が生じる場合があります(約0.2%)。この場合は速やかに救急処置を行いますが、意識低下に伴い嘔吐しそれが肺の中に入ってしまうと誤嚥性肺炎を起こす可能性もあります。

3)神経損傷:ごく稀に、針が神経に接触し、神経に損傷を来すことがあります。

多くは2-3週間で回復しますが(約0.1%)、足などにしびれを残すこともあり(約0.02%)、長期間の治療が必要になる場合もごくまれにあります。

4)硬膜外血腫:硬膜外腔には血管が豊富にあり、その血管を損傷したときに、硬膜外腔に血液がたまり脊髄を圧迫して麻痺症状を示すことが稀にあります(約0.002%)。

もともと血が止まりにくい体質の人や、心臓や脳血管の病気などで血液が固まりにくくするような薬剤をのんでいる人では危険性が高くなるため、適応を慎重に考えなければなりません。

5)硬膜外膿瘍:きわめて稀ではありますが、ブロック部位に感染を起こすことがあります(約0.01%)。膿瘍を形成すると脊髄を圧迫するため、背中の刺入部の痛みが強くなったり、上下肢の麻痺がでることがあります。

 上記4)5)ともに、早期発見が大切です。

硬膜外血腫・膿瘍が生じた場合の主な症状は軽度の背中の痛みですが、徐々に体のどこか(穿刺する部位によります)の感覚麻痺・運動麻痺を生じてきます。

また硬膜外膿瘍の場合は、熱が出ることが多いようです。

このような場合、6時間以内に緊急手術を行えば、症状は回復することが多いです。刺入部の痛み等に関し、こちらからも常に質問しますが、もし変化がありましたらすぐに伝えてください。また感染予防のため、カテーテル挿入中は入浴できません。

以上、硬膜外カテーテル挿入の合併症について記載しました。理解できない項目に関しては遠慮なく質問して下さい。

文章の性質上、危険性のみが強く印象付けられたかもしれません。

しかし重篤な合併症が起きる可能性は、上記の通りあまり高くはありません。

(数百回に一回から、数万回に一回という頻度です)

また硬膜外鎮痛法は外来でも手術室でも毎日行われている方法であり、ほとんど安全に行われています。

担当医と相談の上、和痛分娩を受けるかどうか、相談して決めましょう。

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